四季折々の風景が美しい、緑あふれる代々木公園に隣接するTRUNK(HOTEL) YOYOGI PARK。コンセプトに「Urban Recharge」を掲げ、都会のくつろぎと刺激を同時に愉しみ、明日へのエネルギーへとつなぐ体験を提供する。
このコンセプトをもとに、建築とインテリアを担当した芦沢啓治氏とノーム・アーキテクツのヨナス・ピエール=ポールセン氏とフレデリック・ウェルナー氏に、TRUNKアトリエの木下との対談によって詳らかにしていく。どのような背景でTRUNKと協業し、日本とデンマークの美意識を融合した唯一無二なホテルをつくりあげたのかを語ってもらった。
<木下昌之>
TRUNKアトリエ チーフクリエイティブオフィサー。開発、建築、空間デザイン、プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、企画を担うクリエイティブ部門であるTRUNKアトリエを統括。
<芦沢啓治>
「芦沢啓治建築設計事務所」主宰。「正直なデザイン」をモットーに、建築、インテリア、家具などトータルにデザイン。国内外の建築やインテリアプロダクト、家具メーカーの仕事を手掛けるほか、東日本大震災から生まれた「石巻工房」の代表も務める。
<ノーム・アーキテクツ>
2008年設立のデザインスタジオ。デンマーク・コペンハーゲンを拠点に、人々の経験を豊かにデザインするデザインに取り組んでいる。本プロジェクトはヨナス・ピエール=ポールセン氏とフレデリック・ウェルナー氏が担当。
<木下>
私たちのプロジェクトで数年間デザインを担当し、日本のホテルをデザインしてみてどう思いましたか?
<ノーム・アーキテクツ>
海外からプロジェクトにアサインされる場合、そこには大きな可能性があります。異文化の中でのホテル設計に、先入観のない目で他の経験を持ち込むことができるので、際立ったアイデアを生み出すことができると思います。しかし、習慣ややり方が異なるため、それがハードルとなる可能性もありますが、私たちのコラボレーションは本当に完璧だったと思います。私たちは互いに切磋琢磨し、助け合い、これらすべての要素について話し合って、できるだけユニークなものを製作できるよう議論を重ねてきたからです。
<木下>
TRUNKブランドのエクイティのひとつに「唯一無二」という価値があります。すべては唯一無二でなければならず、デザインも唯一無二である必要があります。そして、冒頭にお伝えした通り、あなたたちの哲学やこれまでのデザインをとても尊敬しているという前提で、
TRUNKのコンセプトに基づくデザインや、遊び心、細部へのこだわりなどを伝え続けた結果、新しいものを生み出すことができたと思っています。
<ノーム・アーキテクツ>
互いに学び、少しずつ互いを高め合う場所でもありましたね。
私たちはこのプロジェクトを通じて、日本の文化、日本的な空間の捉え方を学びました。
今回まず学ぶべきことは、素晴らしい日本の「Ma(間)」 という概念です。場所におけるこの精神を理解し、常に意識することで素晴らしい建築、空間がつくれると思いました。
<木下>
まさにその通りですね。ホテルを設計する際に、ロケーションを踏まえ建築家として考慮したことはありますか?
<芦沢氏>
建築のアイデアは、インテリアを含めたホテルを構成するすべての要素に影響し、調和が取れていないといけません。緑豊かな公園側の風景、人びとが行き交う都市側の風景。この二つの顔が、ホテル建築にも取り込まれています。渋谷から伸びる細い路地を進んだ先にあるこの場所は、ある種の「行き止まり」のような雰囲気を持っていると感じました。ゆえに非常に重要なロケーションだと思いました。
<木下>
そうですね。「Urban Recharge」という私たちのコンセプトをよく反映していると思います。 コンクリートで非常に厳格なデザインを持ちながら、内部は非常に柔らかく、自然由来の素材を使用しています。
<ノーム・アーキテクツ>
このプロジェクトでは都市と自然との出会い、そしてホテルでのリラックスタイムのコントラストについて、ミーティングを通して話し合われてきました。私たちが選ぶ素材にもコンセプトに影響を及ぼす重要性を理解していました。
街からホテルに入ってくることを考慮し、一階はある意味で街に接続されたデザインになっています。素材も、活気に満ちた雰囲気になるものを使いました。そして、部屋に入ったときに必要なのは、街の喧騒から離れてリチャージできることです。ですので、部屋は自然素材で温かみがあり、人の体にとてもなじみやすいものにしています。解放性と親密性のバランスを大切にしました。
<芦沢氏>
外装にも内装にもコンクリートを使用していますが、コンクリートを洗い出した後の触感をいかしています。 このプロジェクトには、人間の感覚にとって重要な物質の持つ側面をたくさん反映しています。物質性とはつまり、実際に触覚で感じることができる環境を作り出しているのです。私たちはこの空間によって意図してリチャージするというより、むしろ五感で自然にそうできると思います。
<ノーム・アーキテクツ>
「ディテールはディテールではない。ディテールはデザインを作るものである」というチャールズ・イームズの名言にもあるように、これはとても重要なことです。
<芦沢氏>
そうですね。空間について細かく話すときに、私たちがいつも共有している概念です。
<木下>
最後にTRUNK(HOTEL)YOYOGI PARKで、ゲストに何を楽しんでもらいたいですか?
<ノーム・アーキテクツ>
そうですね、今回のTRUNK(HOTEL) YOYOGI PARKは 、クールでリラックスしていて気取らない、それでいてラグジュアリーなものをつくるということに努めてきました。都会の喧騒から逃れて、代々木公園を眼下に日中はリラックスでき、夜はパーティなどにぴったりのこの場所で、ラグジュアリーでユニークな体験に浸ることができると思います。そしてここでしか出会えないコミュニティを楽しんでもらいたいと思います。
日本を訪れる海外旅行者にとって、この東京のホテルは非常に思い出深いものとなるでしょう。
季節ごとに景色が変わるので、またゲストが楽しみに来てくれると思います。
<木下>
芦沢さんはいかがですか?
<芦沢氏>
このホテルがランドマークとなり、今の時代のラグジュアリーを知るクリエイティブな人びとにとっての新たな拠点となり、ここが最高の基地になるのではと確信しています。
<木下>
まさにその通りです。コンセプトである「Urban Recharge」は、クリエイティブ層にターゲットを絞っています。 何か新しいものを生み出すためには、リラックス、興奮、インスピレーションが必要です。ここにはそのすべてあるはずです。
また同じ感性を持ったクリエイティブな人びとが集まる場では、他のゲストがコーヒーを飲んでいるのを見かけたら、彼らと話し、議論をし、新しいアイデアを生み出したりすることもできます。
<ノーム・アーキテクツ>
私はTRUNKのアプローチ全般に、ソーシャライジングな側面があることもとても好きです。今回その考えのもとホテルの客室や共有スペースにおいても、そのような取り組みを心掛けました。より多くの地元アーティストや工芸品、アートワークを制作しました。例えば、地元のメーカーと協業して照明をつくったり。そのすべてが、日本の文化や伝統と強く結びついていて、なかなかにユニークな視点だと思います。
<木下>
それがまさにTRUNKのブランドサスティナビリティとして掲げている「ソーシャライジング」です。無理せず等身大で社会に貢献することを目的とした、持続可能な活動を建築やインテリア、アート、アメニティなど全てに要素を取り入れています。
<ノーム・アーキテクツ>
更に良い点は、その気付きや考えをホテルから簡単に持ち帰ることができることです。例えば今回は、全客室のアウトサイダーアートを購入できる点など。簡単な活動ではありませんが、コンセプトが各ホテルで異なっていても取り入れることができる点も素晴らしいと思います。それにより、それぞれのホテルで独自の体験をすることができますよね。それはとても感動的なことだと思います。
<木下>
お越しいただいたゲストには、スタッフからあえてコンセプトやソーシャライジングを知らせる必要はないと思っています。カッコいい、素敵だな、そういう気持ちからTRUNKを知ってもらい、体感することで自然と感じてもらえるものだと考えています。
これからまだまだTRUNK(HOTEL)は展開していきますが、我々が大切にする概念は変わらず唯一無二なブティックホテルを展開していきたいと思います。
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