「一人ひとりが日々のライフスタイルの中で、自分らしく、無理せず等身大で、社会的な目的を持って生活すること」という「ソーシャライジング」をコンセプトに掲げているTRUNK(HOTEL)。
「ENVIRONMENT(環境)」「LOCAL FIRST(ローカル優先主義)」「DIVERSITY(多様性)」「HEALTH(健康)」「CULTURE(文化)」という5つのカテゴリーに注力しながら、サービス、商品などさまざまな角度からゲストに対する体験価値を提供しています。
今回は、宿泊部ハウスキーピング課の近藤夏保が、客室アイテムであるアメニティーを制作してくれている福祉作業所ふれんどの古戸氏と対談形式でTURNK(HOTEL)の取り組みについて語ってもらいました。

右:TRUNK(HOTEL)宿泊部ハウスキーピング課課長 近藤夏保
お客さまにご宿泊いただくお部屋を整える客室チームと、結婚式やイベントなどで使用する宴会場を含む館内の清掃を担当するパブリックチームの2つのチームを統括し、清掃に関するすべての業務を担当。

左:福祉作業所ふれんど施設長 古戸勉
主に知的に障がいを抱えている成人の方が働く就労継続支援B型事業所で現在は27名の方と契約をしている。施設メンバーへの直接支援、保護者や行政との関りなど様々な業務窓口を担当。

ホテルの人が何をしに?そんな出会いからはじまった新たな可能性の一歩

近藤:はじめにTRUNK(HOTEL)との出会いを教えてください。

古戸氏:2016年ごろ渋谷区の長谷部区長が、障がい者の工賃アップのために動き始めていて、その長谷部区長のつながりで御社の当時の開発担当者だった方と出会ったのが初めてかと記憶しています。
その時に渋谷に新しいブティックホテルができること、コンセプトがソーシャライジングという社会貢献につながる活動に取り組んでいるという説明があったと思います。

近藤:はじめてTRUNK(HOTEL)から連絡があり、客室アイテムの制作を依頼された時どのように思われましたか?

古戸氏:今でこそ、さまざまな業種の方とのお付き合いが増えたのですが、あの当時は外部の方とのお付き合いがなかったので、「ホテルの人が何を話しに来るのだろう?」と思ったのが最初の感想です。
そこで「ホテルで使用するアイテムを一緒に作りませんか?」というお話しがありました。私たちの施設では手作りのスリッパは作っていたものの、それ以外のものを仕事として受けることははじめてだったので「できるのかな?」と思ったのが正直なところです。

特別な環境の中で見せてくれた予想以上の“嬉しい裏切り”

近藤:協議の結果シューホーンを制作することになったと伺いました。実際に制作するにあたり苦労した点など教えてください。

古戸氏:お互いがはじめてのチャレンジということもあり試行錯誤しながら、どうやればできるかを考え、細かい手順、材料などを決めていきました。
制作を担当してくれた彼は言葉のコミュニケーションがとれます。挨拶ができるというコミュニケーションだけではなく、言ったことを行動や修正に移せるのです。ただ、抽象的な概念を伝えるのは難しいため、一つひとつの工程を細かくし、わかりやすくレクチャーしていきました。

近藤:私も制作過程の動画を拝見しましたが、本当に一つひとつ丁寧に作られていることを知りました。TRUNK(HOTEL)では宿泊のお客さまにホテルのコンセプトや客室アイテムの紹介をしているのですが、その際にこの動画もお見せしています。お客さまからも、機械がつくったものと違い、手作業でつくられている温かみや、まごころを感じるといったお声をたくさん頂戴します。

古戸氏:実際に常に彼らと接している私たちからすると、まごころと見えているものは丁寧さなのかなと思います。障がいを抱えた多くの人は“まごころ”という抽象的な概念は分かり難いと思います。彼にとってはカメラマンがいて撮影されるのは初めてのこと。だからこそ特別なことをしている緊張や新鮮さが表情や動きにでていたのだと思います。
私自身もそんな彼を見て、本当に驚きました。はじめて会う撮影スタッフに囲まれ、カメラマンの指示通りに動いて、最初から最後までの工程をひとりで間違えることなくできたことは、期待以上の嬉しい裏切りでした。

100点中10点でも社会の一員として関わることの大切さ

近藤:これがOPENから使用している約5年経ったシューホーンです。宿泊された海外のお客様がお持ち帰りになりたいという声が多く、数が減ってきたため今回追加オーダーをさせていただきました。

古戸氏:こうやって使われて経年変化したものを見られるのは嬉しいことです。今までの商品は、売れたあとの情報を追うことができず遮断されてしまう関係が多かったですが、このように長く付き合っていただける継続した関係はありがたいです。
我々の商品の主な販売先は、福祉関係の団体がやっているお店や、地元のお祭りやバザーです。たいていが障がいを抱えた人と関わりのある場所が多いので、こうやって日常生活の中では接点のないホテルにいらっしゃる方々に知ってもらえることは嬉しいことです。

近藤:TRUNK(HOTEL)は「一人ひとりが日々のライフスタイルの中で、自分らしく、無理せず等身大で、社会的な目的を持って生活すること」という「ソーシャライジング」をコンセプトに掲げています。社会に貢献したいけど何をしたらいいのか分からない人はたくさんいると思います。「これお洒落だな」「カッコいいな」そんな“好き”という気持ちで手に取ったものに、実はストーリーがあり社会に貢献できている、そんな仕組みをつくっています。古戸さんがおっしゃられたように、直接福祉作業所と関わる機会がない人でも、TRUNK(HOTEL)を通じて知ってもらうことで、何かに気付いたり、その後の行動が変わったり、そんなきっかけとなってくれたら、私たちの取り組みが価値あるものになっているのだと実感できます。

古戸氏:事業者側ももっと、社会の一員として障がいのある方の存在を明らかにしていくことに意識しないといけないところだと思います。たいていは「ちゃんとしなさい」というところが要求されることが多くありますが、障がいがあっても一人ひとりそれぞれに色々なことが出来て、100点は取れなくても、10点でも社会に関わることが大事なのだと思います。そういったことを積極的に表に出ていくようにすすめていく事が、私たちのような事業者の役割なのだと受け止めています。ですので、こういったインタビューの機会をもらえたことや、このような使われ方、関わり方ができたことは嬉しいです。おっしゃる通り、障がい者ということに意識をしないで見てもらえたらいいんですよね。そういう自然に溶け込むという考え方は非常に共感します。

障がい者だってソーシャライジングを体現したいという思いがある

近藤:最後にTRUNK(HOTEL)と関わる前と後で何か変化などありましたか?

古戸氏:丁度TRUNK(HOTEL)とお付き合いが始まったころから、障がい者を取り巻く環境が激変してきたと感じています。それまでは事業所にもよりますが、障がい者が世の中から分断されてしまうことが多かったように感じます。現在は“シブヤフォント”という渋谷でまなぶ学生が障がい者と共に創り上げた文字や絵柄をフォントやパターンとしてデザインするという事業に関わっているのですが、まさにTRUNK(HOTEL)が結び付けてくれたものでした。
障がいを持った人はいつも何かをしてもらうという、「もらう側」のイメージが強いと思います。でも実は障がい者もソーシャライジングを体現したい、社会のために、人のために役にたちたいと思っていることを知ってもらいたいです。

近藤:実はわたしの身近にも生まれつきハンディーキャップを持った方がおり、子供のころから生活のなかで身近な存在でした。ですが、古戸さんのおっしゃる通り、多くの人々は小学生までは共に生活しているものの、中学生以降は障がい者の方々との関わりがなくなることがほとんどだと思います。このお話を聴いて改めて、私たちのホテルがこの関わりを再構築することに貢献できていることを認識でき、誇りに思えました。行動しないと始まらない。伝えないと伝わらないことがある。TRUNK(HOTEL)だからこそできることを今後も考えつづけ、発信していきたいと思います。
今日は本当にありがとうございました。

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