日本国内に”ブティックホテル”という新しい市場を作ることを目標に掲げる株式会社TRUNK社長の野尻佳孝。「TRUNKER’S TALK」では、野尻が自ら、ホテル業界についてはもちろん、自身の仕事やライフスタイル、東京や日本の未来に至るまで、多様なトピックに切り込んでいきます。
今回のテーマは、「今のホテル業界に足りないこと」。世界のブティックホテルを知り尽くした野尻が読み取る、日本のホテル業界の深刻な今とは? これからの時代に求められるホテル像を語ります。
日本のホテル業界について考えた時に、一番気になる言葉は“おもてなし”です。この国の素晴らしさの象徴としてよく使われる言葉ですが、グローバルな視点からみると、おもてなし違いだと思うんです。ホテル産業も含めた日本の対人サービス業は、マニュアルを徹底的にこなしてお客様に尽くすことが文化であり、美学とされています。枠にはめられた中では完璧にできますし、それには海外の方も驚いています。
日本ではどこの業界でも会社から言われたことをちゃんとできる能力が求められていて、その期待に応えられる人ほど社内での評価が高くなる。ある意味すごく優秀だと思います。でも、お客様から個別になにかをお願いされると、途端に対応に困ってしまうことが多いんです。マニュアル外のことをリクエストされるとうろたえてしまうんですね。それが海外の方からすると驚きだそうです。
わかりやすい例が、ホテルや旅館です。先日ある温泉旅館に仲間たちで泊まった時のこと。部屋で夕食を食べながら「明日の朝、青空の下で入る露天風呂が楽しみだなあ」なんてみんなで話していたんです。するとそこに仲居さんがいらして、翌日の朝食の時間について、7時、7時半、8時のうち、いつがいいのか聞かれました。でも、せっかくの休みだからゆっくり寝ていたいので、明日起きた時に食べる時間をご連絡させていただいてもよろしいですか? とお伝えしたんですが、仲居さんは、今決めてほしいと。
その後、厨房にもご相談されたようですが、回答は変わらなかったので、結局朝食を諦めました。明日の朝食のために起床時間を気にして、寝る前から緊張したくないですからね。日本の接客は、叶えられそうなリクエストであっても、マニュアルから外れることができない。サービスや奉仕の原点を取り違えていると思うんです。
つまり世界基準で考えてみると、日本のホスピタリティのレベルは、自分たちが思っているほど高いわけじゃないんですよ。すごいのは忍耐力。誰に対しても我慢して笑顔で接することができること、または、すみません!申し訳ありません!と、何に対してもすぐにお詫びできることだと思うんです。お詫びの仕方のマニュアルがあるくらいなので…
マニュアル通りに奉仕できることはもちろん素晴らしいことではあるんですが、それよりもマニュアル外の時になるべくお客様の期待に添えるような対応やサービス、会社でいえばマネジメントができるようになっていかないと、本当の意味でのホスピタリティは高まっていかないと思います。
では、そのためにはどうすればいいのか? ホテル業界はもともとマニュアルの多い産業なんですが、TRUNK(HOTEL)が挑戦しているのは、逆になるべくルールをなくすこと。進む方向だけを共有して、それ以外はなるべく自分たちが好きなことに取り組める環境を目指すことにしました。会社の制度や運用の仕方も自分たちがやりたいように決めていいんです。
これまでの日本の会社は最初から制度もマニュアルも決まっているから、ほとんどの日本人はそれをいかにして最適化、最大化するかという思考でしか仕事をしたことがなかったわけですよね。でもTRUNK(HOTEL)のスタッフは、マニュアルを無くし、ルールも最小限にすると決めて運営をスタートしたので、何事も自分で、自分たちで考えるという習慣が身についてきている。だからこそ自分達の働き方についても、もちろんお客様の対応についても自分で答えを見付け出すようになっているんです。
その都度、自分で判断していくことで考える能力が構築されていき、経験を積めば積むほど、目の前のお客様や出来事に対して最善のパフォーマンスが発揮できるようになってきた。自分のしたいことが、お客様の喜びにつながる。だから、自分自身の成長が質の高いパフォーマンスに繋がると捉えていて、社員自ら自分の成長支援制度の設計さえも考えてやっているんです。
私はスタッフに、いい意味でお客様とはフラットな関係でいられるといいねと言っていて、例えば、お客様があまりに無茶というか、(嫌がらせのような)無謀なリクエストをした時には、できませんと伝える勇気を持っていい。いくらお客様とはいえ、すべてを受け入れる必要はないんじゃないかと思うんです。
ホテルを訪れた方からは「TRUNK(HOTEL)って働いているスタッフが楽しそうだよね」とよく言われますが、それはひとりひとりがルールに縛られず、自由にやれているからだと思います。開業して1年半ほどになりますが、これまでの事例を振り返ってみると、ルールをなくしたことで、マイナスなことよりもプラスなこと、誇りに思えることのほうが多かった。だからこそマニュアルをなくし、社員達を信じ社員達に好きな事をやってもらう。そんなマネジメントに挑戦する日本の企業がもっと増えたらいいですよね。それが観光立国を目指す日本にとって必要なことだと思いますし、TRUNK (HOTEL)の取り組みがその成功事例になれたら嬉しいです。(野尻)
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2021.02.25
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2020.10.05
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TRUNKでは、会社も自分も幸せになるためにやりたいことを「WANT」と呼んでいます。
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最初の事例として、2020年9月21日に実現し大盛況を収めた「KUSHICHA PAIRING with RYAKUBON」をご紹介します。
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