背の高いグラスのなかに、果実、氷菓、クリーム、焼き菓子が幾層にも重なり、食べ進める時間は一つの体験へと変わっていく——。パフェ。それは、ひと匙ごとに心が解けていく、甘美な記憶の器です。この夏、TRUNK(KITCHEN)に登場したのは、パフェの名店 PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI(パティスリィ アサコ イワヤナギ)とのコラボレーションパフェ。スペシャリテである「パルフェビジュー®」をはじめ、アートを思わせる独創的なスイーツを届けてきた岩柳麻子(いわやなぎ・あさこ)さんにとって、菓子とは「味わう」を超えて「五感で楽しむ体験」を提供するもの。この思想のもと、TRUNK(HOTEL) CAT STREETという場所で、いかに日本らしい季節の美味しさを表現するのか——。この問いと向き合った岩柳さん、TRUNKチームとしてこの挑戦に携わった髙橋貴洋(たかはし・たかひろ)と丸山響(まるやま・ひびき)の言葉を辿ると、新しいパフェが完成するまでに交わされた緊張と信頼、そして、「完璧な美味しさ」を追い求めた静かな熱量が見えてきました。
時代を拓くパティシエールと届ける、
「日本のおいしさ」を表現したパフェ。
2026年7月、TRUNK(HOTEL) CAT STREET(以下CAT STREET)のメインダイニング TRUNK(KITCHEN)(以下KITCHEN)に、期間限定*の新たなパフェが登場しました。それが、「パルフェビジュー® ペシュ by PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI × TRUNK(KITCHEN)」。岩柳麻子さんがシェフパティシエールを務める「PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI」とのコラボレーションから生まれた、旬の桃【仏:pêche】の美味しさが際立つ宝石【仏:bijou】のようなパフェです。甘い香りを放つ国産桃のソルベの魅力を引き立てるのは、静岡を中心に栽培される希少な茶葉「つゆひかり」のジェラートや、香り高くビジュアルも愛らしいエルダーフラワー。ほうじ茶や和紅茶の余韻も感じさせる複雑で奥行きある味わいで、ひと匙ごとに新たな表情を見せてくれる逸品に仕上げられました。 * 2026年8月31日までの期間限定でのご提供となります
コラボレーションを監修した岩柳さんは、ほぼ独学でパティシエールとしての技術を磨き、2015年、自らの名を冠した旗艦店「PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI」を世田谷区等々力に開業。瞬く間に人気店となり、後に訪れたコロナ禍にあってもスイーツファンからの支持を集め続け、時代を代表するパティスリーとして広く知られる存在に。岩柳さんが生み出すパフェは、「食べるアート」と呼ぶに相応しい美的感覚と創造性を纏い、感動さえも覚える圧倒的な存在感に満ちています。宝石箱のごときそのパフェの周りに流れるのは、魔法にかけられたかのような優雅な時間です。元々は染織(テキスタイル)を学んでいたという岩柳さん。グラスのなかに重ねられた緻密な色彩のグラデーション。さまざまな構成要素を完璧な調律で並べるバランス感覚。布地を織り成すように調和した異素材のアンサンブル。味、食感、色、香り、その全てが丹念に設計された立体的作品である「パルフェビジュー®︎」を見れば、その経歴にも納得がいくことでしょう。パフェの語源は、仏語で「完璧な」「申し分のない」を意味する「パルフェ【仏:parfait】」。その名の通り、完璧な調和を目指して設計されるデザートの頂点に、岩柳さんは立ち続けています。
岩柳麻子さん率いる「PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGI」の顔である「パルフェビジュー®︎」。その名が示すとおり、背の高いグラスのなかに広がるのは、宝石のごとき「完璧な美」。多彩なエレメントを幾層にも重ねた美しい断面を眺めているだけで、至福の時が流れていく。
桃が見せる、豊かな表情。
季節の移ろいを、パフェへと落とし込む。
岩柳さん自身、CAT STREETには以前から足を運ぶことがあったとのこと。パブリックテラスでの夏のミストシャワー、街の中にふっと現れる公園のような感覚、TRUNK(STORE)のこだわりある佇まい。ステレオタイプのホテルとは異なる、「ニューヨークのホテルのような洗練された現代性を感じた(岩柳さん)」と話します。コラボレーションの打診を受けて、最初に目を向けたのは「場所性」でした。世界中からゲストが訪れる、渋谷区神宮前という特別なエリア。文化も、国籍も、興味関心も異なる、多様な人々が行き交う交差点としてのホテル。その環境を思ったとき、表現すべきものは自ずと見えてきました。
“ CAT STREETのイメージは「都会のオアシス」。ホテルなので、もちろん少し背筋が伸びる緊張感はありますが、伝統的なホテルにはないモダンな雰囲気を感じます。ホテル周辺の空気や人の流れを観察していると、いろいろなことがわかりますよね。ホテルという場所だけに、海外からお越しになる方も多い。だからこそ、ここで表現するのは「日本らしさのある美味しいもの」が一番だと考えました ”(岩柳さん)
梅雨の長雨が明け、本格的な夏の訪れを感じる頃、続々と姿を見せる夏の果物。なかでも「圧倒的に人気がある(岩柳さん)」のが「桃」です。国内で栽培される桃は非常に品種が多く、その数は100とも150とも言われます。小ぶりでさっぱりとした甘味の極早生品種(ちよひめ、はなよめ、日川白鳳など)、果汁が豊富な早生品種(あかつき、夢しずく、白鳳など)、大玉で濃厚な甘味を持つ中手品種(なつっこ、清水白桃、川中島など)、実が引き締まりコクのある甘みが特徴の晩生品種(幸茜、さくら、西王母など)と、旬の時期を次々とリレーしながら、ひと夏を通じて愉しみを届けてくれます。香り、甘み、果肉の質感、成熟度、産地。「豊かな表情を持つ桃の姿が、多様なバックグラウンドを持つ人々が交差するTRUNKの場所性と重なった(岩柳さん)」と言います。
“ 日本らしさの表現として「桃を主役に」というのは、コラボレーションが決まった早いタイミングで決めていました。一言で桃といっても、実は何十種類もの品種があるんです。一週間ごとに旬の銘柄が変わっていくくらい、この時期は全国から美味しい桃が集まってきます。硬い桃もあれば、完熟の桃もある。さっぱりした桃もあれば、濃厚な甘みの桃もある。多彩な表情を見せてくれるその感じが、CAT STREETという場所にも合うんじゃないかなと思ったんです ”(岩柳さん)
季節の果物の美味しさとともに、岩柳さんが大切にしたのは、日本独特の香りや食感を楽しんでもらうこと。食べ進めるなかで「驚き」や「発見」があるパフェです。
“ 食感、食材、香り。パフェを構成するポイントごとに、新たな気づきがあることを大事にしました。日本には独特の香りがあります。それを季節の果物とともに楽しんでいただく。今回のコラボレーションパフェで最も意識した部分です ”(岩柳さん)
ひと匙の中に「日本のおいしさ」を見つける。すべてを綿密に計算し、この時期の、この場所でしか味わうことのできない、唯一無二のパフェの構想が練り上げられていきました。
ヨーロッパからアメリカを経由して伝わり、先鋭的に進化した日本のパフェ文化。高い技術と豊かな創造性が問われる厳しい世界だ。そのトップランナーとして、岩柳さんが描く「新次元のパフェスタイル」は常に注目を集め続けている。
手がかりは、一枚の設計図。
想像力を働かせ、15層のパフェに挑む。
TRUNKチームの一員として、今回のコラボレーションに携わったのは、KITCHENでデザートを担当する髙橋貴洋と、CAT STREETの宴会キッチンでパティシエを務める丸山響。KITCHENでは、これまでも季節ごとのパフェを提供してきましたが、岩柳さんとの共創は、これまでとはまったく異なる密度を持つものでした。
“ 「パフェでコラボレーションをするなら、岩柳さんしかいない」という声は当初からありました。ただ、実際にレシピを見たときは、正直な話、「これ、自分たちで形にできるのかな…」という不安もありました。これまでKITCHENで作ってきたパフェは、もっとシンプルな構成が多かったので。層の数も、求められる精度もまったく違う。だからこそ、すごく大きな経験になりました ”(髙橋)
岩柳さんから最初に届いたのは、完成品ではなく、レシピという名の「設計図」でした。記されていたのは、使用する素材名や詳細なグラム数、そして、それらを補足する手描きのスケッチ。ですが、それぞれをどのように仕込み、どの順番で組み上げ、どの状態を正解とするのかまでは、細かく書かれていたわけではありません。これまでTRUNKが手掛けてきたパフェは、多くても数層から成るものが中心でした。一方、今回のコラボレーションパフェはこれまでに手掛けてきた倍以上の15層構成で、組み方も遥かに複雑。レシピに書かれた素材を重ねれば自ずと完成するというような、易しいものではありません。それぞれの層が、どのバランスで、どの温度で、どの食感で、どのタイミングで現れるべきなのか。見た目の美しさだけでなく、「ゲストが食べ進める時間」にまで細心の注意を払ってプランニングされたものでした。
“ コラボレーションメニューの場合、最初にパートナーの方と一緒に完成品を作りながら、その手順を頭と身体で憶えていくというのが一般的なやり方です。ただ、今回はいろいろな状況が重なり、岩柳さんから届いたレシピを頼りに、自分たちでひとつずつ考えなければならなくて。ソースと書いてあるが、これは一体どうやって作るのか。この複雑なパーツはどこで使うのか。どんなに小さな疑問でもメールやオンラインミーティングで岩柳さんに確認しながら、手探りで進んでいったという感覚でした ”(髙橋)
“ 正直なところ、最初はパフェの難しさを理解できていませんでした。「パフェグラスにパーツを盛り込みさえすれば形にできるだろう」という感覚がどこかにあったんですよね。ところが、実際にやってみると材料のグラム数は精緻に決められ、何層にも積み上げていくにはかなりの集中力が求められる。ゲストに驚きと感動を与えるパフェを完成させるには、「技術」だけでなく「思考」も重要なのだと感じました ”(丸山)
目で見たゴールを再現するのではなく、まずは自分たちで考え、手を動かして組み立て、問いを立てる。チームで何度も試作し、岩柳さんに質問を重ね、朧げに見えていた理想形に少しずつ近づけていく。決して一直線ではない道のりでしたが、それでも「その過程があったからこそ、得られたものがあった(髙橋)」と振り返ります。
“ 順番が逆で良かったんだと思います。もし最初に見ていたら、おそらく、その完成形に合わせにいくだけになっていた。でも今回は、まず自分たちで考え、パーツをつくり、組み上げて、悩み、意味を考える時間がありました。その過程を踏んだからこそ、岩柳さんが何を大切にしているのかが、少しずつ自分たちのなかに入ってきた気がします ”(髙橋)
岩柳さんの仕事を目の当たりにした二人が感じたのは「ビジュアルと食感の両立」でした。たとえば、桃のカット。硬い桃であれば薄く、柔らかい桃であれば厚みを持たせる。美しく見せるだけではなく、ゲストがスプーンを入れたときの食べやすさまでを考える深い視点に、仕事の細やかさを感じたといいます。パフェを食べ終えたあとに温かいお茶を添えるという「小さな心遣いにも感動した(髙橋)」と話します。冷たいジェラートや果実を重ねたパフェの余韻を、最後にどう整えるのか。そこまでを含めた「一連の体験」として綿密に設計されていることに、深いクリエイティビティとホスピタリティを見たのです。
15層から構成されるパフェの設計図を受け取った髙橋と丸山。手描きのスケッチと文字に込められた岩柳さんの「意図」を読み解くため、あらゆる要素と丁寧に向き合った。未だ見ぬ完成形を想像しながら、パズルのピースを組み上げていくような時間は、料理人としての成長に資するものとなった。
創意工夫の先にたどり着いた「完璧」。
体験価値としてのパフェの完成形。
もちろん、初めからすべての感覚が一致していたわけではありません。作り手同士の共創において、レシピや手順だけでは届かないものがあります。どこに余白を残すのか。どの瞬間に美しいと感じるのか。何を整え、何を生かすのか。今回のコラボレーションでは、言葉にしきれない感覚までも含めて少しずつ受け渡されていきました。
“ 一つひとつは本当に細かいこと。でも、決して部分だけの話ではなく、全体として私が大切にしていることをお伝えすることができました。私の感覚は、ばっちり共有できたと思っています ”(岩柳さん)
今回のパフェは、岩柳さんのレシピをそのまま再現しただけのものではありません。PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGIに息づく美学を受け取りながら、TRUNKらしい解釈を加え、現場での試行錯誤を形にした一品です。そこには、部署を越えた協働もありました。普段は働く場所や役割が違うメンバーが、同じパフェを囲み、悩み、手を動かし、言葉を交わす。その時間そのものが、今回のコラボレーションが生んだ大きな価値でもあったのです。
最終の試食会で岩柳さんが伝えたのは、「完璧です」という言葉でした。わからないことから逃げず、悩みながらも何度も試し、不安を感じつつも正面から向き合う。そうした時間があったからこそ、完成したパフェには単なる美しさ以上の確かな手触りが宿ります。岩柳さんの美意識。TRUNKメンバーの学び。現場で交わされた緊張と信頼。完成までの紆余曲折。このコラボレーションパフェには、そのすべてが重層的に織り込まれています。クリエイターが出会い、一つの作品に力を尽くすことで何が生まれるのか——。今回のパフェは、その問いに対するひとつの答えでもありました。
完成したパフェを見た岩柳さん。「ゲストに楽しんでほしい」と話したのは、パフェそのものだけではありません。街を歩き、ホテルに入り、その空間で味わう。味わう前後の時間まで含めて、このコラボレーションパフェの体験はより豊かに立ち上がっていくと言います。
“ まず、あの街を歩き、雰囲気を感じ、それからホテルに入って、パフェを召し上がっていただく。もっと言うなら、ぜひ宿泊してから食べてもらいたいですね。体験とセットになることで、このパフェの味わいだけでなく、そこに込めた想いにも、より強く共感していただけるんじゃないかなと思います ”(岩柳さん)
味わう時間の前後にある体験まで含めて、このパフェは完成していく——。岩柳さんが届けようとする価値はパフェグラスのなかだけに留まりません。街の空気、ホテルの雰囲気、季節の移ろい。それらが重なり合って初めて、この場所で味わうべきパフェが形になったのです。
最高のパフェを提供する最前線で触れた、
「素材を見極める手」と「想いを伝える言葉」。
後日、髙橋と丸山の二人は東京・等々力のPÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGIで研修を受けました。現場に入る前は、「怖さや不安はあった(丸山)」と言います。名店の厨房に立つ緊張感。TRUNKを代表して参加する責任。自分たちの技術もまた見られているという重圧。ですが、それらはすべて杞憂に終わりました。
“ 「忙しい現場の邪魔になってしまうんじゃないか」という不安もありましたが、実際にはとても温かく受け入れてくださって。岩柳さんのお店は、高い集中力が張り巡らされたプロフェッショナルな現場で、多くのことを学ばせていただきました ”(丸山)
まず現場に入って最初に気づいたのは、スタッフの方々の「素材との丁寧な向き合い方」でした。桃のソルベひとつをとっても、桃の状態を手で確かめ、味を見て、素材の状態に合わせて柔軟かつ迅速に判断する。機械的に進めるのではなく、その日の素材の状態を見極めて最適な形へと導いていました。希少な茶葉である「つゆひかり」のジェラートの仕込みにも、「パティシエとしての深い洞察を感じた(髙橋)」と言います。決められた抽出時間に従うだけでなく、牛乳やクリームのなかで茶葉をしっかり煮出し、アイスマシンにかける工程までを見越して味を設計する。素材の特徴を深く理解しているからこそ、どこまで香りを出すべきか、どの段階で味が整うのかという判断ができる。そこにあったのは、レシピをなぞるだけでは辿り着けない「現場ならではの感覚」でした。
“ 素材それぞれの特徴を理解し、最も魅力を引き出せる扱い方を熟知されているんですよね。桃であれば、指で触れ、味を見て、適切に判断する。お茶であれば、ジェラートになった時の香りや苦味の出方までも想像する。素材に対する知識の深さに驚くばかりでした ”(髙橋)
「提供時のお客さまへの説明」も印象的だったと振り返る二人。PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGIでは、パティシエ自身がパフェを組み上げ、素材、産地、レシピのこだわりまで、お客さまに丁寧に伝えています。芸術的で美味しいパフェをつくるだけでなく、一つの体験として届けるところまでを自分たちの仕事と捉えている。その姿勢は、TRUNKでの仕事に持ち帰るべき貴重な学びとなりました。
“ パフェに関するパティシエの説明が本当に詳しくて。その魅力を伝え切ろうとする姿勢に感動しました。自分の仕事に誇りを持ち、自分の言葉で真摯に伝える。それができてこそ、初めてプロフェッショナルと言えるのだと感じました ”(髙橋)
研修に立ち会った岩柳さんも、二人の動きに手応えを感じていました。素材のカットの仕方、作業台の使い方、味を見る姿勢。目にした瞬間に「あぁ、これは大丈夫だ」と感じたと振り返ります。
“ 丁寧で手際良い仕事ぶりを見て、現場で鍛えられてきたプロフェッショナルであることはすぐにわかりました。研修当日も、次々にパフェを組んでお客さまに提供してもらい、本当に助かりました。研修やインターンでいろいろな方に来ていただきますが、現場の最前線で長く働かれている方の動きは全然違いましたね。「またいつでも来てください」とお伝えしました ”(岩柳さん)
プロフェッショナルは、プロフェッショナルを知る。パフェに関しては「教える」「教わる」という関係性であったとしても、食で感動を届ける者同士の、互いの仕事を認め合う眼差しがそこには存在していました。
PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGIでの研修は、「料理人としてのこれから」につながる貴重な学びに満ちていた。すべての食材と丁寧に向き合う姿勢は、現場に入るからこそ感じる事ができるもののひとつだ。仕事ぶりに対する岩柳さんからの評価も、二人にとって自信につながったことだろう。
気づいたのは、プロセスが持つ意味。
「完成に至る道筋」にこそ、次への糧がある。
今回のコラボレーションを通じて、髙橋が強く感じたのは「プロセスの大切さ」でした。完成した美しいパフェからは、その裏側にある無数のチャレンジは見えにくい部分もあります。ですが、実際にはパーツごとに考え、組み上げ、崩し、再び考えるという膨大な時間の積み重ねがあり、そこにこそ「作り手の想い」が宿っています。そして、その学びが、これからのKITCHENでの仕事につながっていく。今回のコラボレーションパフェの提供が終わったあとも、パフェを含めた季節ごとのデザート作りは続いていきます。その時、「素材をどう生かすか」「どのようなストーリーを込めるか」というこのコラボレーションで養った視点が、これまで以上に大切になっていくはずです。
“ 料理においても、素材をどう生かすかという視点を大切にしてきました。同じ野菜でも時期によって水分量や香りは変わる。一般的な調理法に当てはめるのではなく、その時期の素材が持つ魅力をどう表現するか。自分が大切にしてきた価値観は、岩柳さんとも重なる部分があると感じています。盛り付けにもストーリーがあり、「なぜこうなっているのか」という想いを伝えていきたい。今回のコラボレーションでの経験は、今後の自分の料理にも必ず生きてくると思います ”(髙橋)
丸山も「今回の経験は、素材への理解をさらに深めるきっかけになった」と述懐します。どの状態が一番おいしいのか。どこに手間をかけるべきなのか。固定観念で判断せず、目の前の素材と向き合うこと。その積み重ねが、パティシエとしての底力につながっていく——。そう強く感じたのです。
“ 素材の状態を見ることや、どうしたら一番おいしくなるのかを考えることは、もっと深めていきたいと思いました。たとえ手間が掛かっても、その工夫があることで完成度が高まるなら、しっかりと取り組む。その姿勢が、これからの自分を成長させてくれると信じています ”(丸山)
今回のコラボレーションを通じて二人が得たのは、パフェ作りの技術だけではありません。トップランナーと過ごした貴重な時間がもたらしたもの、それは料理の道を歩むプロとして、クリエイションを生業とする職人として、「より根底の部分で、何を大切にするべきか」という姿勢でした。
岩柳さんにとっても、このコラボレーションを通じていくつもの発見がありました。そのひとつが、TRUNKメンバーが見せた「チームの力」。一人の作り手の強い個性によって生み出されるものと、チームの力によって磨かれていくもの。そのどちらも知る岩柳さんだからこそ、TRUNKの現場で見られた連携が特に印象に残ったのでしょう。開業から10年を経て、PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGIもまた、「これまで自身が担ってきたものを、次の世代のスタッフたちへと少しずつ手渡していく局面に入っている(岩柳さん)」こともあり、「組織としての強さ」は岩柳さんにとっての重要なテーマとなっているのです。
“ TRUNKの方々と関わるなかで羨ましく感じたのが「組織力」です。パフェを試食しに来てくださった方々、パフェやデザートをつくられる方々、料理をつくられている方々、PRに関わる方々。それぞれが自分たちの役割を全うしながら、美しく仕事を進めていました。誰かが頂点に立って指揮するのではなく、すべてのメンバーが有機的に連携している。ここはぜひ見習いたい部分だと思いました。PÂTISSERIE ASAKO IWAYANAGIも、これからは、実力があるスタッフ、意志のあるスタッフを前に立たせていきたいと思っています。彼ら・彼女らが輝ける場をつくること。今、私たちがお菓子の世界で何をすべきなのかを考えながら、少しずつ次の世代に手渡していきたいと思っています ”(岩柳さん)
個人の表現から、チームとしての総合力へ。作り手としての美意識を保ちながら、いかに組織のなかで共有し、次の世代に託していくのか。岩柳さんが見た「チームで動く美しさ」は、これから歩むべき道とも静かに響き合っていました。
共創。それは「与える側」と「与えられる側」という関係ではなく、それぞれが持つ知識と経験を持ち寄り、まだ誰も見たことのない新しい価値を生み出すプロセス。クリエイター同士が互いの感覚を交換し、新しい表現へ踏み出した記録です。パフェグラスに閉じ込められた桃の季節は短い。けれど、そこに至るまでに交わされた学びと熱量は、これからのTRUNKのものづくりに、確かに残り続けていくはずです。
プロフェッショナルにとって、確かな手仕事は、言葉よりも遥かに雄弁だ。「ひとつの作品」を共に創り上げたプロセスは、お互いの知識と経験を交わし合った時間として長く記憶される。









